とある一人になりたい晴れた昼下がりのはなし。
2012.04.04(Wed)
ふと思いついた、
蜘蛛男と道化師見習い騎士の話。
続きからどうぞ。
(写真はありません)
とある晴れた昼下がり。
カーテンを閉じきって、ひとりの道化師見習いはただ思案していた。
吸血鬼であろうその身に、日の光は痛いものなのだろう。
誰に送る手紙なのか、少し筆を運ぶまでに時間をかけている。
「拝啓 桜花匂う頃、いかがお過ごしでしょうか… いや、違うか。
拝啓 ようやく草木萌え出ずる季節となりました… いや、長いな」
紙に書くより前に、まずは虚空で筆を動かしながら。
ぶつぶつと、手紙に書く内容を試行錯誤していた。
こういうことは、やはり一人で考えるに限るものだが…
コン、コン、コン。 ゆっくりと扉を叩く音が、道化師見習いに重荷を載せた。
「…まただ…」
奴だ。 いつもいつも彼に付きまとう、正直なところ邪魔者的存在にしかなりえない人物。
今では、扉を叩いただけでも、その存在を確認できるようになってしまった。
「…何だい!?」
苛(いら)立ちを隠さず、道化師見習いは扉の向こうの人物に問うた。
「センパぁイ♪ 考え事ばかりでお疲れでしょう? 気分転換に外でも散歩しませんか♪」
聞こえてきたのは、嫌に陽気な男の声。
「お気遣いは結っ構!」
叩き落とすように、道化師見習いは男の言葉を否定する。
「まぁたカーテン閉め切っていらっしゃるんでしょ、お体に悪いですよぉ…」
「うそつけ。 分かって言ってるでしょアンタ…」
わざとらしい男の言葉を、また叩き落とす道化師見習い。
その時だ。 男が扉を開けようとした。
しかし、扉はガチャンと音を立てるだけで、一向に開く様子がない。
……男が入ってこないように、鍵を閉めておいたのだ。
その鍵も、きちんと道化師見習いの手の中にある。
「あ~っ、センパイ、鍵まで閉めていらっしゃる! ほ~ら、開けてくださいよぉ!
少しくらい開放的になったらどうですかぁ、んもう!!」
コンコンコン! 先ほどより強く、男が扉を叩いた。
しかし、道化師見習いも譲らないようで、
「閉鎖的で悪かったねぇ!! でもアンタに開放的になったら僕の人生が終わりそうだよぉ!!」
「そんな意地悪言わないでくださいよぉ、ひどいお方だ…」
男が声を裏返して、わざとひ弱に振舞ってみせるのに腹が立ったのか、
「うるっさい!!」
道化師見習いは、壊れない程度に扉をブーツで蹴りつけた。
その音に驚いたのか否か、
「……はぁ~い…」
男はまたわざとらしくしょげて見せ、その後は何も話しかけてこなくなった。
「……は~ぁ… これでしばらくは静かになるかなぁ」
しかし、道化師見習いは、ひとつ、男について気にしていた。
先ほどから、足音の遠ざかる気配がない。
吸血鬼と悪魔の混血ゆえに、足音が聞こえないのは仕方のないことだ。
しかし、大体はこの距離なら気配で探り合える。
だというのに、気配が消える様子が一向も見受けられないということは、
下手をすれば、ずっと扉の前に男が立ち続けていることになる。
「………まぁ、邪魔されないだけ、いいとするかなぁ…」
机に向き戻り、また、試行錯誤を始める。
…しかしそれが続いたのも、ほんのひと時だけであった。
カチャ… かちゃ… カタン!
閉めておいたはずの、鍵が開いたのだ。
「………やりやがった…」
しかし、この事態は、道化師見習いには想定済みだった。
「少しばかり失礼しますねぇ♪」
またしても男の陽気な声が響き、ガチャリと扉が開けられた。
さすがに、自らの声の主を間違えることなどないだろう。
そこにいたのは、兎型に切られた林檎の載った皿を手に持った、先ほどの男だった。
「…ヘアピンをこっちによこしてくれないかな」
道化師見習いは、男のほうを向かずに、手だけを差し出した。
「えっ、そんなものは持っていませんけど…」
「うそつけ。 じゃあどうやって部屋に入ったんだい」
「…えーとぉ… センパイを想う魔法の力と気合で♪」
冗談だということは分かっている。
しかしそれがあまりにもふざけたものだったゆえに、道化師見習いは大きな溜息をついた。
「…どうせピッキングでしょ~ぉ… どれだけ隠しても分かるんだからね」
「さっすがセンパイ! はい、どうぞ♪」
男は明るい返事を返し、ヘアピンを差し出す。
道化師見習いは、奪うようにそれを手に取り、頭に留めた。
どこかに置いたりしまったりするより、自分の身に着けておいたほうが安全だからだ。
「…先輩の部屋に無断で入るのは、とんでもないマナー違反なんじゃないかなぁ、ファーエラぁ!?」
頭を抱えながら、男の名を呼んだ。 苛立ちを隠さない道化師見習いに、なぜか男は表情を明るくした。
「それはそれは大変なご無礼を、ヴィアブレイズ先輩!」
「…本当にアンタは分かってやってるよねぇ…
それから、先輩って呼ぶのもやめてもらえないかなぁ!? アンタより年下だよ僕はぁ!!」
「えぇ~、でも、『あちら』に手を染めたのは、貴方が先だったはずですが…」
「いい加減にしないとそのうるさい口を縫い付けるよこの不良品が」
そう。 道化師見習いは、男よりもずっと年下だ。
男の言う『あちら』とは… まあ、今は細かいことはあまり言えないが、
とりあえず、『法に触れることをした』とだけは言っておこう。
しかし、それは『元々はそうだった』というだけであり、今は何も彼を縛るものなどないのだ。
それを引きずられていて、さらに憧れの的にされるのだから、困ったものだ。
「お疲れでしょう、ほら、甘いものでも食べて元気出してください♪」
ゆったりと、男が林檎の載った皿を机に置いた。
返ってくるはずのない謝礼の言葉を聞く前に、男はカーテンへと向かう。
「ほらぁ、ちゃんとカーテンも開けておかないと… わー眩しい!!」
カーテンを開けた男が発した言葉に、道化師は苛立ちを見せながらも吹きだした。
「…自業自得だよぉ…」
そう。 吸血鬼と悪魔のハーフである男にも、日の光というものは眩しく、そして痛いものなのだ。
それを分かっていて、あえて開けて痛い思いをしたいとは。
道化師を装っているのか。 それとも、単なるマゾヒストなのか。
「とにかく僕には日の光は必要ないから。 閉めるよ」
書きかけの手紙を見られないようにと、あわただしく椅子から立ち、カーテンを閉めにいく。
しかし、カーテンを手に取ったときに、男の声が静かに部屋に響いた。
「拝啓 春暖の候、いかがお過ごしでしょうか…
なんてかしこまった手紙を書くのは苦手だから、やっぱりやめにしておこうと思ったんだ。
元気にしてるかな? 僕は今、引っ付き虫ならぬ溝鼠(どぶねずみ)に追い回されながらも、
何とかみんなと仲良くしてうまくやっていけてると思うよ。
僕がこの家に行くまで、君にはずいぶんと世話になったね …?」
慌ててしまっていたもので、手紙を隠しきれていなかった。
棒読みでなく、ナレーションのように抑揚をつけて読むあたりに余計に腹が立った。
それもなかなかの腕だ。
「…アンタって奴は…」
隠し切っていなかったこちらも悪いのだが…。 道化師見習いはがっくりと机にうなだれた。
まあ、隠していたところで、ストーカーまがいのことをする彼だ。
どうせ、探り当てるだろうと、道化師見習いは無理やり納得していた。
「どなた様へのお手紙で?」
男が楽しそうに問うものだから、また道化師見習いは腹を立てて舌打ちをした。
「…アンタの嫌いな人」
…基本的に、人を嫌うことの少ない男だが… 実際、間違ってはいない。
返事を聞いた男はわざとらしくおどけた顔をした。
「私の嫌いなお人にですか! はてさて誰だったかな?」
「その無意味な質問を投げかけるのはやめてくれないかなぁ」
道化師見習いは机に載せてある手紙をまた奪うように手に取り、裏返した。
今度はまた表を見られないように、ちゃんと自分の手を置いている。
「えぇ~、もっと先を見せてくださいよぉ…」
「嫌いな人に出す手紙でも?」
道化師見習いの問いかけに、また男はわざとらしく視線を逸らした。
「…それより、かしこまったお手紙の書き方なら、私が教えますよ♪」
話を逸らし、またわざとらしく目を輝かせる男。
「………は~ぁ……」
…『また邪魔が入った』… 道化師見習いの心には、それしかなかった。
そしてまた、親しい人へ手紙を書くタイミングを失ってしまった。
ちょっと小説もどきラッシュ!?
今度は、ヴィアブレイズとファーエラで。
彼は、ヴィアブレイズを追いかけるためならなんでもしちゃう人なんですね。
ゆえに今回はピッキングしちゃいました(笑)
いったい、ヴィアブレイズは誰にお手紙を書こうとしているのやら。
また、乗り気になるとすごい勢いで書き綴るかもしれません。
(この小説もどきもお手紙も)
蜘蛛男と道化師見習い騎士の話。
続きからどうぞ。
(写真はありません)
とある晴れた昼下がり。
カーテンを閉じきって、ひとりの道化師見習いはただ思案していた。
吸血鬼であろうその身に、日の光は痛いものなのだろう。
誰に送る手紙なのか、少し筆を運ぶまでに時間をかけている。
「拝啓 桜花匂う頃、いかがお過ごしでしょうか… いや、違うか。
拝啓 ようやく草木萌え出ずる季節となりました… いや、長いな」
紙に書くより前に、まずは虚空で筆を動かしながら。
ぶつぶつと、手紙に書く内容を試行錯誤していた。
こういうことは、やはり一人で考えるに限るものだが…
コン、コン、コン。 ゆっくりと扉を叩く音が、道化師見習いに重荷を載せた。
「…まただ…」
奴だ。 いつもいつも彼に付きまとう、正直なところ邪魔者的存在にしかなりえない人物。
今では、扉を叩いただけでも、その存在を確認できるようになってしまった。
「…何だい!?」
苛(いら)立ちを隠さず、道化師見習いは扉の向こうの人物に問うた。
「センパぁイ♪ 考え事ばかりでお疲れでしょう? 気分転換に外でも散歩しませんか♪」
聞こえてきたのは、嫌に陽気な男の声。
「お気遣いは結っ構!」
叩き落とすように、道化師見習いは男の言葉を否定する。
「まぁたカーテン閉め切っていらっしゃるんでしょ、お体に悪いですよぉ…」
「うそつけ。 分かって言ってるでしょアンタ…」
わざとらしい男の言葉を、また叩き落とす道化師見習い。
その時だ。 男が扉を開けようとした。
しかし、扉はガチャンと音を立てるだけで、一向に開く様子がない。
……男が入ってこないように、鍵を閉めておいたのだ。
その鍵も、きちんと道化師見習いの手の中にある。
「あ~っ、センパイ、鍵まで閉めていらっしゃる! ほ~ら、開けてくださいよぉ!
少しくらい開放的になったらどうですかぁ、んもう!!」
コンコンコン! 先ほどより強く、男が扉を叩いた。
しかし、道化師見習いも譲らないようで、
「閉鎖的で悪かったねぇ!! でもアンタに開放的になったら僕の人生が終わりそうだよぉ!!」
「そんな意地悪言わないでくださいよぉ、ひどいお方だ…」
男が声を裏返して、わざとひ弱に振舞ってみせるのに腹が立ったのか、
「うるっさい!!」
道化師見習いは、壊れない程度に扉をブーツで蹴りつけた。
その音に驚いたのか否か、
「……はぁ~い…」
男はまたわざとらしくしょげて見せ、その後は何も話しかけてこなくなった。
「……は~ぁ… これでしばらくは静かになるかなぁ」
しかし、道化師見習いは、ひとつ、男について気にしていた。
先ほどから、足音の遠ざかる気配がない。
吸血鬼と悪魔の混血ゆえに、足音が聞こえないのは仕方のないことだ。
しかし、大体はこの距離なら気配で探り合える。
だというのに、気配が消える様子が一向も見受けられないということは、
下手をすれば、ずっと扉の前に男が立ち続けていることになる。
「………まぁ、邪魔されないだけ、いいとするかなぁ…」
机に向き戻り、また、試行錯誤を始める。
…しかしそれが続いたのも、ほんのひと時だけであった。
カチャ… かちゃ… カタン!
閉めておいたはずの、鍵が開いたのだ。
「………やりやがった…」
しかし、この事態は、道化師見習いには想定済みだった。
「少しばかり失礼しますねぇ♪」
またしても男の陽気な声が響き、ガチャリと扉が開けられた。
さすがに、自らの声の主を間違えることなどないだろう。
そこにいたのは、兎型に切られた林檎の載った皿を手に持った、先ほどの男だった。
「…ヘアピンをこっちによこしてくれないかな」
道化師見習いは、男のほうを向かずに、手だけを差し出した。
「えっ、そんなものは持っていませんけど…」
「うそつけ。 じゃあどうやって部屋に入ったんだい」
「…えーとぉ… センパイを想う魔法の力と気合で♪」
冗談だということは分かっている。
しかしそれがあまりにもふざけたものだったゆえに、道化師見習いは大きな溜息をついた。
「…どうせピッキングでしょ~ぉ… どれだけ隠しても分かるんだからね」
「さっすがセンパイ! はい、どうぞ♪」
男は明るい返事を返し、ヘアピンを差し出す。
道化師見習いは、奪うようにそれを手に取り、頭に留めた。
どこかに置いたりしまったりするより、自分の身に着けておいたほうが安全だからだ。
「…先輩の部屋に無断で入るのは、とんでもないマナー違反なんじゃないかなぁ、ファーエラぁ!?」
頭を抱えながら、男の名を呼んだ。 苛立ちを隠さない道化師見習いに、なぜか男は表情を明るくした。
「それはそれは大変なご無礼を、ヴィアブレイズ先輩!」
「…本当にアンタは分かってやってるよねぇ…
それから、先輩って呼ぶのもやめてもらえないかなぁ!? アンタより年下だよ僕はぁ!!」
「えぇ~、でも、『あちら』に手を染めたのは、貴方が先だったはずですが…」
「いい加減にしないとそのうるさい口を縫い付けるよこの不良品が」
そう。 道化師見習いは、男よりもずっと年下だ。
男の言う『あちら』とは… まあ、今は細かいことはあまり言えないが、
とりあえず、『法に触れることをした』とだけは言っておこう。
しかし、それは『元々はそうだった』というだけであり、今は何も彼を縛るものなどないのだ。
それを引きずられていて、さらに憧れの的にされるのだから、困ったものだ。
「お疲れでしょう、ほら、甘いものでも食べて元気出してください♪」
ゆったりと、男が林檎の載った皿を机に置いた。
返ってくるはずのない謝礼の言葉を聞く前に、男はカーテンへと向かう。
「ほらぁ、ちゃんとカーテンも開けておかないと… わー眩しい!!」
カーテンを開けた男が発した言葉に、道化師は苛立ちを見せながらも吹きだした。
「…自業自得だよぉ…」
そう。 吸血鬼と悪魔のハーフである男にも、日の光というものは眩しく、そして痛いものなのだ。
それを分かっていて、あえて開けて痛い思いをしたいとは。
道化師を装っているのか。 それとも、単なるマゾヒストなのか。
「とにかく僕には日の光は必要ないから。 閉めるよ」
書きかけの手紙を見られないようにと、あわただしく椅子から立ち、カーテンを閉めにいく。
しかし、カーテンを手に取ったときに、男の声が静かに部屋に響いた。
「拝啓 春暖の候、いかがお過ごしでしょうか…
なんてかしこまった手紙を書くのは苦手だから、やっぱりやめにしておこうと思ったんだ。
元気にしてるかな? 僕は今、引っ付き虫ならぬ溝鼠(どぶねずみ)に追い回されながらも、
何とかみんなと仲良くしてうまくやっていけてると思うよ。
僕がこの家に行くまで、君にはずいぶんと世話になったね …?」
慌ててしまっていたもので、手紙を隠しきれていなかった。
棒読みでなく、ナレーションのように抑揚をつけて読むあたりに余計に腹が立った。
それもなかなかの腕だ。
「…アンタって奴は…」
隠し切っていなかったこちらも悪いのだが…。 道化師見習いはがっくりと机にうなだれた。
まあ、隠していたところで、ストーカーまがいのことをする彼だ。
どうせ、探り当てるだろうと、道化師見習いは無理やり納得していた。
「どなた様へのお手紙で?」
男が楽しそうに問うものだから、また道化師見習いは腹を立てて舌打ちをした。
「…アンタの嫌いな人」
…基本的に、人を嫌うことの少ない男だが… 実際、間違ってはいない。
返事を聞いた男はわざとらしくおどけた顔をした。
「私の嫌いなお人にですか! はてさて誰だったかな?」
「その無意味な質問を投げかけるのはやめてくれないかなぁ」
道化師見習いは机に載せてある手紙をまた奪うように手に取り、裏返した。
今度はまた表を見られないように、ちゃんと自分の手を置いている。
「えぇ~、もっと先を見せてくださいよぉ…」
「嫌いな人に出す手紙でも?」
道化師見習いの問いかけに、また男はわざとらしく視線を逸らした。
「…それより、かしこまったお手紙の書き方なら、私が教えますよ♪」
話を逸らし、またわざとらしく目を輝かせる男。
「………は~ぁ……」
…『また邪魔が入った』… 道化師見習いの心には、それしかなかった。
そしてまた、親しい人へ手紙を書くタイミングを失ってしまった。
ちょっと小説もどきラッシュ!?
今度は、ヴィアブレイズとファーエラで。
彼は、ヴィアブレイズを追いかけるためならなんでもしちゃう人なんですね。
ゆえに今回はピッキングしちゃいました(笑)
いったい、ヴィアブレイズは誰にお手紙を書こうとしているのやら。
また、乗り気になるとすごい勢いで書き綴るかもしれません。
(この小説もどきもお手紙も)
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